何を読むか
スマホが役に立つのは疑いありません。しかし、学力の礎は、紙の本によるしかありません。読書は「○○を読まなければいけない」というものではなく、読みたいものを読みたいように読めばいいのです。ただし、学力の礎を思うなら、戦略が必要です。
「本を読む子は成績が伸びる」と昔からよく言われますし、そう考えて子育てしようとする親も少なくありません。じっさいには、本が好きでよく本を読むんだけど、成績はそれほどでもない、という子もいます。必ずしも読書量と成績が比例するようには見えません。
小学校3年生までは、ほぼ具体的な事象しか学びません。目に見えること、直接体験できそうなことです。4年生になると、一部、抽象概念が入ってきます。5年生からは抽象概念が主軸となります。抽象概念をこなせなければ、小学校高学年以降の勉強が思うように理解できなくなるのは明らかです。生まれるより前のこと、未来、行ったことのない世界、宇宙、ミクロの世界、分数の計算、方程式、関数、証明、古典(今使われていない言葉や文化)、コンピュータ、機械の仕組み、生命の仕組み、物理や化学、因果関係、推論、計画、分析……。
抽象概念をこなす基、つまり学力の礎は、読書によって培われますが、なんでもかんでも抽象概念を育てる、とはいかないようです。
絶対的な昔話
学力の礎は、昔話によって育ちます。断言してもいいです。古い時代から、年配の人たちが若い世代や子どもに語り伝え、はるかに継承してきた文化財です。人類の叡智が凝縮されています。小澤俊夫さんが昔話の研究者として第一人者でしょう。昔話について知るには、小澤俊夫さんの著書などで勉強されるといいと思います。ただし、小澤さんは、昔話が学力の礎であるとは言っていませんし、学力のための昔話という切り口は好まれないかも知れません。
昔話は、非常にシンプルで、クリアーな語り口です。そもそも書物でなく、口伝えだったわけで、読む文学ではないのです。近年は、テレビやインターネットの普及により、世界的に語る人が減少してきました。そのぶん、書籍に姿を変えています。
昔話のシンプルさは、抽象概念に通じるものだと考えています。幼い子でも、青少年でも、浴びるほど昔話を聞いたり読んだりし続ければ、抽象概念をこなす力が育ってきます。おそらく、おとなでもそうでしょう。語り口をそのままに、飾ったり曲げたりしていない、素朴な昔話の本(絵本も)を中心にします。どんなに本が嫌いでも、勉強が分からなくても、昔話を聞いて分からないとか、読んで分からないとかいうことはないでしょう。まず、そこです。
昔話を浴び続ければ、本を読むことが苦にならなくなり、だんだん楽しさがわかってくるはずです。そうなると、文学でも難しい本でも読んでいけるでしょう。その時点では、かなりの読解力がついているはずです。
昔話なら、どこの図書館にもあります。学校の図書室にもいろいろあるでしょう。昔話を読むことにお金をかけなくてもいいです。ただし、時間はかかります。学力に対して即効性はありません。1年以上地道に続けないと、目に見える成果はないでしょう。
書き写し
「読む」のと同じく大事なのが「書く」です。日本人は、書くことが好きな国民性と言われていますが、SNSの普及により、言葉(日本語)を書く力は低下しているようです。
わが家で読書と同等に重視しているのが書き写しです。作文ではありません。本をひたすら原稿用紙に書き写すのです。だいたい6歳ごろから、毎日、原稿用紙1枚。1年で300枚程度になります。ハルは5000枚以上書いたはずです。アキは6000枚を超えるようですし、ナツ、フユも2000~3000枚になるでしょう。
書き写しは、日本では伝統的な学習方法です。このようなことを子どもたちがしているというと、だいたい60歳より上だと、「すばらしい!とてもいいことだ!」と絶賛される方が目立ちます。かたや、30歳以下の方だと、キョトンとして、「それが何の役に立つんですか?」という反応になりがちです。わが国の伝統文化が継承されにくくなっていることを、こんな場面でも感じます。
キーボードではなく、手で書く。お手本とする書物に「なる」、その著者に「なる」。文は人なり。言葉には言霊がある。短絡的に役に立つことは示せないので、そんな言い方しかできません。学校でもそうですが、社会に出ると、様々な場面で報告したり、プレゼンしたり、説得したりという場面があり、書く力は非常に大切です。それだけでなく、言葉を体で修得し、生きた言葉を自分の中から発する、このことは、学力の礎として強調してもしすぎることがありません。
書き写しという勉強法も、お金はかかりません。ただし、時間がかかります。なんとなく成果が見えるには、最低でも2000枚は書かねばならないでしょう。1日1枚なら6年。1日6枚なら1年。これだけ書いて何も起きないはすがありません。変わります。必ず。