大学受験10 浅い読解力と、本
前回、本好きになることで浅い読解力が身についていくことを書きました。
本の存在感
ちょっと面白い記事を紹介します。あちこちで言及されているので、ご存知の方も多いでしょう。ニューズウィーク日本語版2018年10月18日の「子どもの時に、自宅に紙の本が何冊あったかが一生を左右する:大規模調査」です。
31カ国、16万人を対象に行われた調査で、16歳の時に家に本が何冊あったかが、大人になってからの読み書き能力、数学の基礎知識、ITスキルの高さに比例することが明らかになった。
というもので、その結果は、
本がほぼない家庭で育った場合、読み書きや算数の能力が平均より低かった。自宅にあった本の数とテストの結果は比例し、テストが平均的な点数になるのは自宅に80冊ほどあった場合だった。ただし350冊以上になると、本の数とテスト結果に大きな関係性はみられなくなったという。
衝撃的なのは、
本に囲まれて育った中卒と本がなかった大卒が同じ学力
ということでしょう。
注意すべきは、次の3点です。
- 本があるかどうかであって、読んだかどうかではない
- 「言葉の読み書き」(いわゆる文系の能力)と「数字」(いわゆる理系の能力)の双方が向上する
- 本がもたらす利益は世界的に一貫しており、教育水準や、大人になってからの仕事、性別、年齢、両親の教育水準とは無関係
350冊というと、ざくっといって、中型の本棚2つ分ぐらいです。この調査結果から、わりきった言い方をすると、「家に本棚が2つあったら、それだけで大学の文系・理系を卒業したのと同等の学力がつく」となります。同時に、「家に本がまったくなかったら、せっかく大学へ行っても低い学力にとどまる」とも言えます。
本棚2つというのは、けっこうポイントで、子どもたちがよその家に行ったとき、本の有無や量に目が行くようですが、本がたくさんある家でも本棚2つが上限と言っています。本が1冊も見あたらないか、ほぼないに等しい家のほうが多いとも。本というとき、マンガや娯楽雑誌は除くでしょう。
わが家には、本棚2つ分の50倍ありますが、できる子よりもさらに50倍できるという話になるわけはありません。
この調査は、読むかどうかではなく、本の存在を問題としています。電子書籍では物理的な存在がないので、何冊あろうとも、学力とは関係ないでしょう。本の存在と学力は、因果関係なのか、相関関係に過ぎないのか。それはこの調査ではわかりません。明らかな相関関係があることが示されているということです。
2000円の本を350冊買えば、70万円。他の教育投資と比べて、高いか、安いか。子どもが2人なら、1人あたりは35万円。家庭のみならず、学校の教室、学童ルーム、保育園など、子どもたちが長時間を過ごす場で、このような公共投資を行えば、その地域の子どもたちの学力は向上すると期待できそうです。図書館や図書室にははるかにたくさんの本があります。このような場で過ごす時間も未来への貴重な投資と考えられないでしょうか。
効率主義はNG
本の存在は、浅い読解力の原点です。電子書籍で読解力をつけるというのは無理だと考えています。しかも、浅い読解力を身につけるには、長い年月が必要です。最小の努力で最大の成果を、などという効率主義は、まったくそぐいません。浅い読解力はテクニックや技術ではなく、あらゆるスキルの地盤であり、生涯の財産です。しかるべき時間とプロセスが必要なのは当然です。ただただ本を置いておけばいいだろうということはないでしょうし、本好きにしようと焦ってもダメです。
いままで本を読む習慣がなかった子なら(幼児でも)、本好きになる兆しが現れるまで3年以上はかかるでしょう。そんなに辛抱できないという方には、このサイトの情報は役に立ちません。浅い読解力が身につくこともないでしょう。石の上にも3年です。
わが家では、浅い読解力を身につけることを、なによりも優先してきました。そして、浅い読解力に基づいて、完全独学をやってきたのです。わが家の4人の子のうち上の3人は、ゼロ歳から読みきかせを始め、小1段階では参考書などをつかっての完全独学がじゅうぶん可能となっていました。つまり浅い読解力が備わっていたということです。末のフユは小1から読みきかせを始め、小3には完全独学が可能となっていきました。
ところで、深い読解力は、浅い読解力とは別物で、本をいくら読んでもそれだけでは身につきません。とはいえ、浅い読解力は深い読解力の前段階であり、浅い読解力なくして深い読解力が身につくこともありません。浅い読解力を身につけるプロセスの中に、深い読解力への入口があります。それは次回に。