大学受験21 100年時代の人生戦略
前回、独学が自律・自立につながるということを書きました。
もう少し大きな話、人生を見通すような話をしましょう。『LIFE SHIFT(ライフシフト)』『LIFE SHIFT 2(ライフシフト2)』(ともに、リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/池村千秋訳/東洋経済新報社)というベストセラーをご存知でしょうか。この本を元に、安倍首相時代に首相官邸に人生100年時代構想会議が設置されています。政府としても重要なテーマと考えています。
ライフシフト
現在、日本人の平均寿命は女性87歳、男性81歳ですが、医療がこの先も発展しない前提の計算で、現実にそくしておらず、医療の発展を加味したコホート平均寿命だと10歳以上数字が大きくなります。つまり、日本人はすでに100歳以上生きる時代に入っています。そうなると、これまでの「教育→仕事→老後」という3ステージの人生キャリアではやっていけません。これからの時代は、マルチステージ、マルチキャリアで考えないといけないというのがこの本の主張です。
小中高+大学が教育の時代で、22歳(または18歳)で社会へ出て会社に勤め、60歳か65歳で定年となり、その後は年金などで老後を送る、という単純で硬直した人生観ではなく、何歳でも何度でも大学へ入り、何度でもどんな種類でも仕事を移り、旅や社会活動なんかもあったりして、定年や老後などなく、その時々にできることをやっていく、という流動的な人生観にシフトすべきとのことです。
長寿は、災厄にもなり得るし、恩恵にもなり得ます。これまでの人生観に縛られていたら、立ち行かなくなり、長寿が災厄となりかねません。人生観をシフトさせることで、長寿が恩恵となるでしょう。
『ライフシフト2』によると、こう書かれています。
「新しい長寿時代」の核を成すのは、マルチステージの人生と幅広い選択肢だ。
ただし、私たちがそのような恩恵を実感するためには、新しいテクノロジーと同じくらい、新しい社会のあり方も広く普及し、深く浸透し、大きな変革をもたらす必要がある。具体的には、ひとりひとりが創意工夫の能力を発揮することが不可欠だ。既存の規範を問い直し、新しい生き方を生み出し、ものごとへの理解を深め、実験をおこない、新しい可能性を探索すべきなのだ。
要するに、誰もが社会開拓者として、新しい社会のあり方を切り開く覚悟をもつ必要がある。
好ましい社会変革とは、「人間とは何か」という、より深い問題に関わるものでなくてはならない。
基本は学び
また、『ライフシフト2』では、「教育機関の課題」の章でこう書かれています。
生涯にわたって学び続けることを考えると、人生の序盤で受ける教育では、特定のスキルや知識を身につけることよりも、ずっと学び続けるための土台づくりに重点を置いた方がいい。
「ずっと学び続けるための土台づくり」とは、当サイトで主張する独学に他なりません。当サイトでは、独学をするための方法については何も言っていません。そうではなく、独学ができるようになるための土台づくりについて繰り返し説いています。土台ができれば、どのようにでも学びを展開していけます。独学とは、1人で学ぶことではありません。主体的で深い学び(文部科学省の言葉)そのものです。授業であろうと、対話であろうと、1人であろうと、対面であろうと、オンラインであろうと、書物であろうと、どんな形態でも主体的な学びが独学です。
『ライフシフト2』は言います。
デジタルスキルをもたず、コンピュータに詳しくない人たちが払わされる代償は、今後ますます大きくなるだろうが、その種のスキルだけを磨こうとすることが好ましい結果につながるわけではないのだ。大きな価値をもつのは、スキルの組み合わせだ。初等・中等教育や大学で「STEAM」への関心が高まっている理由はここにある。STEMだけではなく、「アート(=A)」の資質も併せ持つべきだという発想が広がりはじめているのである。
STEMとは、科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学の頭文字を並べたもので、2000年以降に強まった理系偏重におおむね相当します。アートは芸術と捉えられることもありますが、リベラルアーツと捉えるべきです。
文部科学省の「STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進」にこうあります。
AIやIoTなどの急速な技術の進展により社会が激しく変化し、多様な課題が生じている今日、文系・理系といった枠にとらわれず、各教科等の学びを基盤としつつ、様々な情報を活用しながらそれを統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結び付けていく資質・能力の育成が求められています。
文部科学省では、STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)に加え、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲でAを定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進しています。
つまり、文理融合のリベラルアーツです。当サイトの「大学受験4 リベラルアーツ」「大学受験5 文系と理系」でこのことに触れています。
そもそも独学には文系も理系もありません。すべてが学びの対象で、垣根や枠など存在しません。コンピュータやインターネットの知識やスキルは不可欠で、ただ使えればいいというものではなく、仕組みや理論にも通じた方が良いです。人工知能がますます発展していくと、何がおきているのか、どうなっていくのかを理解できるかどうかは、猛烈な格差をもたらしかねません。
独学の土台ができていれば、このようなジャンルを学び修得していくことは困難ではないはずです。科学も数学も、困難ではないはずです。あわせて、文学、歴史、哲学など、リベラルアーツの根幹たる学びも困難ではないはずです。学校の勉強や大学受験にとどまらず、どこまでも学びを広げ、展開していくことが困難ではないはずです。人生100年時代を生きるに不可欠の土台です。
わが家でホームスクーリングを始めたのは、2007年にハルが小学生となるタイミングです。ホームスクーリングについてはかなりためらいましたが、決め手となったのは、まさにこのことだったのです。当時、人生100年時代は見えていませんでしたが、世界が大きく変わりつつあり、独学の素養が非常に必要となるということは見えていました。
次回は、長寿と教育について。